英語コーチは突然に

君に会えなかったら

あれは、僕がまだ新入社員だったころの話。

見るからにベテランっぽいおぢが、通りすがりに声をかけてきた。

お、見ない顔だな~

俺、前の部署じゃさ~、こういうのもやってて~

話を聞くかぎり、全知全能らしい。

「へー。英語話せるのすごいですねー。僕、英語話すの苦手なんですよー」

(早く仕事に戻りてー)

あ、そうなの? 英語話す方法、教えてあげようか? 英語を話せないってことは、英語ができないってことなんだよね

「あ、じゃあ実は話せるのに、話してないだけってことですか?」

いや、違う。君は英語ができないってこと。英語ってのは総合格闘技だから、『話せない』=『できない』なんだよね。朝と夜なら、どっちが続けやすい? 毎日、俺がメニューを組んであげるよ。YouTubeって知ってる?

おぢはスマホを取り出し、タイマーを1分にセットした。

じゃ、昨日何食べたか、英語で話してみて

僕、別に英語話したいなんて言ってないのに。

その瞬間、僕専属の英語コーチが誕生した。

誰も求めていない、必要としていないのに、新しい役職がここに生まれた。

その日から、カンチがいおぢの名前の横には「@英語コーチ」が付いた。

英語コーチって何。

誰が誰にコーチするの。

誰が誰にコーチできるの。

見知らぬ二人のままでいたかった。