君に会えなかったら
あれは、僕がまだ会社員だったころの話。
見るからにベテランっぽいおぢが、挨拶にやってきた。
「俺、前の職場じゃさ~、こういうのもやってて~」
話を聞くかぎり、全知全能らしい。
「へー。英語話せるのすごいですねー。僕、英語話すの苦手なんですよー」
(早く仕事に戻りてー)
「あ、そうなの? 英語話す方法、教えてあげようか? 英語を話せないってことは、英語ができないってことなんだよね」
「あ、じゃあ実は話せるのに、話してないだけってことですか?」
「いや、違う。君は英語ができないってこと。英語って四輪駆動だから、『話せない』=『できない』なんだよね。そういう人にはさ、仕事、任せらんないんだよ。毎週、面談しようか。何曜日空いてる? 俺が一から教えてあげるよ。YouTubeって知ってる?」
…
僕、別に英語話したいなんて言ってないのに。
その瞬間、僕専属の英語コーチが誕生した。
誰も求めていない、必要としていないのに、新しい役職がここに生まれた。
その日から、カンチがいおぢの名前の横には「@英語コーチ」が付いた。
英語コーチって何。
誰が誰にコーチするの。
誰が誰にコーチできるの。
見知らぬ二人のままでいたかった。