カンチがいおぢ
僕が新入社員だったころの話。
見るからにベテランっぽいおぢが挨拶をしにやってきた。
「俺、前の職場じゃさ~、こういうこともしてて~」
話を聞くかぎり、全知全能らしい。
「へー。英語話せるのすごいですねー。僕、英語話すの苦手なんですよー」
(早く仕事に戻りてー)
「あ、そうなの? 英語話す方法、教えてあげようか? 英語を話せないってことは、英語ができないってことなんだよね」
「あ、じゃあ実は話せるのに、話してないだけってことですか?」
「いや、違う。君は英語ができないってこと。英語ってのは四輪駆動だから、『英語を話せない』=『英語ができない』なんだよね。そういう人にはさ、仕事、任せられないんだよ。毎週、面談しようか。何曜日空いてる? 英語ペラペラになるまで、徹底的に鍛えてあげるよ。俺の若いころはさ…」
…
僕、別に英語話したいなんて言ってないのに。
その瞬間、僕専属の「英語コーチ」が誕生した。
誰も求めていない、必要としていないのに、新しい役職がここに生まれた。
その日からおぢの名前の横には「@英語コーチ」が付いた。
英語コーチって何。
誰が誰にコーチするの。
誰が誰にコーチできるの。
見知らぬ二人のままでいたかった。
君に会えなかったから
僕が高校生だったころはまだ、英語コーチなる職業が存在しなかった。
もしあのとき英語コーチがいたら、僕はもっとスマートに受験に臨めて、がんばれない自分を責めることもなかったのかい?
でもそうしたら、僕だけのぽんこつな自分との向き合い方は生まれなかったってことだ。
だったら僕は、あのとき英語コーチがいなくてよかった。
ぽんこつな僕のままでいられてるんだから。