ピュア・ジャパン
あれは僕が中2のころ。
土曜日に塾の補習があった。
定期考査の直前だったと思う。
好きな時間に塾に行き、先生手作りのくそださWordプリントを渡される。
答えを埋めたら、隣の教室にいる先生に持って行って採点してもらう。
そんな補習だった。
“Who is your favorite singer?”
ポルノグラフィティと書こうと思ったけど、スペリングにリスクがあることに気がついた。
Porno Graffittiと正式につづれたところで、Graffitiが正しいスペルとして×にされる可能性だってある。
となれば、aikoだ。
aikoなら間違えようがない。
“I like aiko.”
これで帰れる。
そう確信し、先生が待つ隣の教室へと急いだ。
「あのさ~、Aikoって、最初大文字にすべきじゃない? ま、いいけど」
先生という生き物は、難癖をつけずにはいられないものだ。
難なく補習を終え、帰る準備をしようと教室に戻ると、得意科目がひとつもないあいつが困った顔で椅子に浅く腰かけていた。
「教えてあげようか?」
そいつはコクリとうなずいた。
「ここはね、こう」
“I like Go Hiromi.”
「あ、でも名前を先にしないと」
“I like Hiromi Go.”
「はい、これで先生のところ持ってって」
これは僕にとって、渾身のボケだった。
平成の中2が、好きな歌手を聞かれて郷ひろみと答えるだろうか?
んなわけない。
でもそいつは、僕が何を書いたのかもわかっていなかった。
そいつは英語ができなさすぎて、先生からのあたりも強かったから、「なんで郷ひろみやねん」みたいなツッコミも受けず、粛々と採点されていた。
僕のボケは誰にも拾われなかった。
そんな姿を横目に、僕は帰路についた。
‘26
あの日、あいつは、僕にすがるしかなかった。
僕の答えを信じるしかなかった。
あの日、あの教室で、あいつは先生から郷ひろみファンだと勘違いされた。
それが、人の答えをそのまま受け入れるしかなかった者が背負う代償である。
燃えてるのか、感じたのかは、自分で判断しないといけない。
僕は今も、あの日“I like Hiromi Go”と書かされたあいつを笑っていられるんだろうか。